八月~金福寺(こんぷくじ)と桔梗(ききょう) |
作者 たきねきょうこ | |||||||||||
切れぎれの蝉時雨と呼び合うように、かぎろい立って揺らぐのは、路肩の夏草たち。日盛りの強い日差しに炙り出された片陰は、漆黒の縁取りを際立たせて、8月・葉月。 暑さに景色まで揺らめく街中を逃れて、北白川通りをまだ東に坂道を登ると、やがて細い小道の向こうに金福寺の石段が見え隠れしはじめます。 ここ金福寺は、松尾芭蕉や与謝蕪村ゆかりの俳諧の地で、俳聖を慕う人々がそれぞれ思いおもいにゆっくりと訪ねてこられるところ。本堂には、蕪村の筆による芭蕉翁像のほか、遺愛の文台や硯箱が飾られ、高台には蕪村によって再興された芭蕉庵が、野趣あふれるたたずまいでひっそりと鎮まっています。道なりになおも登ると蕪村の墓や俳人たちの墓所が並び、したたる緑の中で今も静かに市街を見下ろしています。 この本堂前に広がる小じんまりとした侘びさびた庭園を、この季節、青紫や白妙の彩りで飾るのは、星型のゆかしい桔梗の花。 緑に取り囲まれたような庭に、いっそうの清楚さが際立つこの桔梗は、古来より詩歌や文様にも取り上げられて人々に深く親しまれてきたキキョウ科の多年草。日当たりのいい山野に自生し、古くは「朝かお」ともいい、また漢音で「桔梗=きちこう」と呼ばれたことから、やがてそれが訛ってキキョウと言い慣わされるようになったといわれています。また乾かした根は「桔梗根」といって、咳を鎮め、痰を取る薬として用いられた他、根を切って塩漬けにしたり、若い苗を茹でて和え物などにして食べる地方もあるのだとか。 俳句の聖人たちが集う金福寺に、凛と背を伸ばし、花を揺らす桔梗は、他の花では得がたい取り合わせの美しさで庭園の品格をいっそう高めているよう。 すがしい山風が渡る先、あの東側の山際で眠る多くの俳人たちも、この花にひととき暑さ忘れておられることでしょう。
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