十月~護法堂(ごほうどう)と秋明菊(しゅうめいぎく) |
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作者 たきねきょうこ
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刷毛で軽く試し塗りしたような絹雲が、空に高く、高く、幾筋も引かれて、十月。
北からは紅葉の便りも届き始め、自販機には温かい飲み物が久々にお目見えして、ゆるい秋風に心惹かれる心地する、神無月。
京の西、曼陀羅山(まんだらやま)の麓に位置する護法堂のひっそりとした境内の庭にも、秋明菊が長い花茎を山風に揺らしながら、やわらかな風情を漂わせています。
京都の五山送り火のひとつ、鳥居形の点るこの曼陀羅山は、別名を仙翁寺山(せんのうじやま)といい、古くは山頂に仙翁寺の伽藍がそびえ、人々の信仰を集めていたと伝えられています。
現在の護法堂の境内に、竹林に囲まれて絶えることなく湧きい出る清泉が、今も「仙翁水」と呼ばれていることから、護法堂自身、仙翁寺のなんらかの名残りではないかとも考えられています。このあたりで幼年期を過ごした友人は、竹林で竹登りをしたり、勾配のある境内を陣地にして鬼ごっこをしたりと、子供時代の格好の遊び場だったことを懐かしげに話してくれましたっけ。
この護法堂の庭に、今の季節、彩りを添えるのが「秋明菊」。
秋明菊は、古く中国から渡来した後、京都の貴船あたりに植えられたことから別名を「貴船菊」とも呼ばれ、可憐な花群で貴船神社に詣でる人々を今も楽しませてくれます。
「菊」と名付けられていますが、実はキク科ではなくキンポウゲ科に属し、十八世紀に持ち込まれたヨーロッパでは「ジャパニーズ・アネモネ」の名で広く普及しているのだとか。高さは五十センチから百センチに及ぶ多年草で、花弁も八重から一重まで、また花色も濃紅色から薄桃色、純白のものまで多くの種類があり、原産国の中国では、重弁のものを「秋牡丹」、単弁のものを「打破碗花」と呼び分けているそうです。
山裾の護法堂に揺れる秋明菊はほとんど白に近い淡紅色で、神さびた小さなお堂の手前で、か細い茎をしなやかに秋風にたわませて、薄い一重の花びらを今にも咲きこぼさんばかり。
この秋明菊が散り初めて参道の楓があざやかに色付く頃、嵯峨野は秋の紅葉の季節を迎え、繰り出した大勢のもみじ狩りの人出に賑わい立っていくことでしょう。
護法堂(ごほうどう)
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説明 |
正式には「護法堂弁財天」。御堂には弁財天を祀る。
地元の方からは「嵯峨の弁天さん」と親しまれている。
境内には楓の木が多く、紅葉時もまた見事。 |
拝観時間 |
自由 |
住所 |
京都市右京区嵯峨鳥居本一華表町(Googleマップで表示) |
交通 |
京都バス「護法堂弁天前」下車 徒歩すぐ |
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