十一月~お茶の花と建仁寺 |
作者 たきねきょうこ | |||||||||||
少しずつ深まっていく秋の冷気に、小首をかしげるように、白い小さな花を開くのは、お茶の花。 ツバキ科の常緑低木で、中国南西部が原産のこの木の茶種を、数々の経典と共に建久二年(1191年)宋から持ち帰り、苗を慈しみ育てた日本茶の始祖、栄西禅師。
その栄西禅師を開山に仰ぐ東山区の建仁寺では、禅宗独特の真っ直ぐに並んだ、山門から法堂・方丈のまわりを取り囲むように、お茶の木が生垣として植え込まれていて、この霜月あたり、ひっそりとゆかしい花々で垣根が彩られます。 白くてまあるい花びらのなかに、鮮やかな黄金色のしべをつけ、ひっそりと咲きこぼれていく、ゆかしい花にくらべて、葉の方は、タンニンやビタミンCからの疲労回復や利尿効果が、また最近では、カテキンのがん予防の食物因子効果が脚光を浴び、お煎茶からお抹茶、ほうじ茶まで、日本茶ブームともいわれるほど、広く見直され、愛飲者が増加中とか。 禅宗の広まりとともに、私たちの日々のつれづれに、ほっこりとまたしっかりと根付いていったこのお茶も、元来は「茶禅一味」といわれて、禅の修業のひとつとして取り入れられたもの。 禅で「喫茶去」(きっさこ)といえば、さあ、お茶でも召し上がれという意味ですが、お茶をいただくことから、茶禅の味をも汲み取り、栄西禅師の茶徳を少しでも偲びたいという深い奥義を秘めたもの。 茶祖の蒔かれた種がまた種子を増やし、今は垣根となって匂い立つ建仁寺の境内に、今日も静かに座禅の警策の音が、響き渡っていきます。
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