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深井(ふかい)

能「野宮(ののみや)」

 晩秋の嵯峨野(さがの)を訪れた旅の僧の前に、婉然とあらわれるひとりの里女。女はこの野宮の由来を語り、光源氏と六条の御息所(みやすどころ)の「野宮の別れ」の日に今日があたること、自分がその御息所自身であることを告げて、黒木の鳥居に姿を消します。僧の回向に姿をあらわした御息所の霊は、正妻葵の上との車争いの無念さや、源氏との逢瀬のせつなさを舞い、やがてまた火宅(迷界)の門へ――。
 面長の深井(ふかい)の面(おもて)からは、自ら断ち切る源氏への哀しい思慕と、たち消えぬ情念の妄執が、揺らぎ合いながら匂い立ってくるようです。

深井(洞白満喬作 江戸初期)

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