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中将(ちゅうじょう)

能「小塩(おしお)」

 洛西(らくさい)、小塩山(おしおやま)の大原野(おおはらの)に繰り出した花見の人々の前に、桜をかざしてあらわれたひとりの老翁からは、常人ならぬ気品が匂い立つよう。在原業平(ありわらのなりひら)と二条の后の昔の恋を明かした老人は、やがて業平の霊そのままに、往時のあでやかな殿上人姿(でんじょうびとすがた)であらわれいで、桜霞の月のもと、后との思い葉の数々を懐かしみ、あけぼのに取り紛れるように消え入ります。
 頭には初冠、脇に太刀を備えた業平の面は「中将(ちゅうじょう)」を用い、思慕することの喜びと憂いを抱え込んだ男心の淵際が、寄った眉頭に見え隠れしているようです。

中将(宝来作 室町時代)

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