能「車僧(くるまぞう)」
雪の嵯峨野。法力で滑るように破れ車を走らせる老僧に、禅問答を挑むひとりの山伏。愛宕山(あたごやま)の太郎坊(たろうぼう)と名乗っては、赤頭に羽団扇の天狗姿で、今度は車僧に行較(ぎょうくら)べを挑みかかります。やがてどちらにも惨敗した天狗は、仏法の教えの尊さと車僧の法力の威力に恐れ入ったとばかり、失せるように退散していくのですが――。 大形な大べしみの面に、驕慢な天狗のどこか子供じみた屈託のなさと哀愁が、かもし出されているかのようです。
大べし見(三光坊作 室町時代)